南米チリの中部にあたる北パタゴニア地方は世界有数の火山地域である。アンデス山脈の稜線に上がると数々の火山特有の富士山の様な形の山がいくつも見えた。アルゼンチン サン・カルロス・バリローチェから100km。国境を越えたチリ側にある“プジェウエ火山”この火口の部分に当たるクレーターにアラスカの様な斜面があると聞いた。
昨年から2年越しで狙った斜面はとてつもない光景が広がっていた。直径最大幅2.5kmにもなる巨大なクレーターは360度全方位に巨大な斜面を持つ。標高差も100m~200mスティープで地形変化に富んだ素晴らしい斜面だった。アプローチするのに2日、数々の南米大陸からの洗礼を受けた我々は山を滑るのに必要なハイクの距離に後ろめいていた。
スキーやスノボード、アバランチギアなど、とにかく荷物が多い冬山の装備。雪が無い場所からのアプローチは板も背負わなければならない。荷物の軽量化が必須である。荷物の 中でも一番の大物テントが軽量だと本当に助かる。しかし、一度ストームが来るとテントから出るのもままならない冬山の天気、2~3日停滞することはざらである。テントは広く快適であることに越したことはない。今回、プジェウエ火山に使用したMSR Access 3はとにかく軽量であった。4シーズン3人用テントで総重量が2.3kg !脅威的な軽さである。メインポールと台形のポールで成り立つフレーム構造は非常にシンプルで設営に時間がかからない。設営時に吹雪で早く荷物をしまいたい状況の時など非常に助かる。そして中に入るとわかるのだが外見以上に広い居住空間がある。両サイドの壁が垂直近く立っていて天井も高い。これがテント内部に広い空間を作っている。胡坐をかいて座っても背中を丸める必要がなく対面で会話ができる。撮影機材など荷物が多いために3人用のテントをチョイスしたのだが、両サイドに入口と前室があるAccess 3はそれぞれの荷物をぜん前室に置くことができた。これは本当に便利。トイレやちょっと外に出たい時に気を使うこともなく、自分のスペースを前室に作ることによって調理やブーツの履き替えなど別の部屋に居るかの様にできる。ダブルウォールで結露も少なく快適に地球の裏側にある火山のクレーターの中で過ごせた。結果クレーターの中に居た5日間は晴天に恵まれて日本の180度裏側にある天空の斜面に様々なラインを刻むことができた。クレーターの真ん中にテントを張り360度ある斜面を滑り倒すと言う発想は南米の人達も聞いたことが無いらしく、軽量なテントと我々の雪山を滑る情熱が導いた新な記憶に残る冒険となった。